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最高裁判所第一小法廷 平成4年(行ツ)137号 判決 1993年2月18日

名古屋市北区東大曽根町上一丁目八三七番地

上告人

丹羽章夫

同所同番地

上告人

丹羽あき子

右両名訴訟代理人弁護士

青木栄一

成瀬伸子

名古屋市北区清水五丁目六番一六号

被上告人

名古屋北税務署長 納屋昭宏

右指定代理人

有田千枝

右当事者間の名古屋高等裁判所平成三年(行コ)第九号相続税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分取消請求事件について、同裁判所が平成四年四月三〇日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人青木栄一、同成瀬伸子の上告理由について

本件記録によれば、原審の訴訟指揮に所論の違法は認められず、所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。論旨はいずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大堀誠一 裁判官 味村治 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達)⑫大堀誠一・味村治・小野幹雄・三好達

(平成四年(行ツ)三七号 上告人 丹羽章夫 外一名)

上告代理人青木栄一、同成瀬伸子の上告理由

第一点

1、原判決は、御庁昭和五六年四月二四日第二小法廷判決(民集三五巻三号六七二項)に違背し、法令の解釈を誤っている。

すなわち、本件訴訟にかかわる相続税について被上告人は、昭和六三年六月三〇日付で、更正処分及び過少申告加算税賦課決定を行い、その後、平成四年一月二四日付で上告人丹羽章夫に対し、平成四年一月三〇日付で上告人丹羽あき子に対し、それぞれ納付すべき税額を減額する更正処分及び過少申告加算税賦課決定を行っている。

2、ところが、更正処分がなされた後、さらに、これを減額する再更正処分がなされた場合に、取消を求める処分がいずれであるかについて、従来の学説には、

再更正により当初更正処分は消滅するという、いわゆる「消滅説」

当初更正処分の違法は、再更正処分に吸収され、従って、当初更正処分取消訴訟は訴えの利益を欠くことになるという「吸収説」

再更正処分は当初更正処分と別個の行為として併存することになるという「併存説」

当初更正処分が再更正処分により一部取消されたものとする「一部取消説」

がある。

増額更正処分については、判例は吸収説を採用し、当初の更正処分の取消しを求める訴えの利益は失われるとする(最高裁昭和五五・一一・二〇、一小、訟務月報二七巻一二-五九七頁外)。

しかし、減額再更正処分については、前記御庁昭和五六年四月二四日判決は、一部取消説をとり、

「減額再更正処分は、それにより減少した税額に係る部分についてのみ法的効果を及ぼすものであり、それ自体は、再更正処分の理由いかんにかかわらず、当初の更正処分とは別個独立の処分ではなく、その実質は、当初の更正処分の変更であり、それによって、税額の一部取消しという納税者に有利な効果をもたらす処分であるから納税者としては、右再更正処分の取消しを求める訴えの利益はなく、専ら減額された当初の更正処分の取消しを求めれば足りる」

と判示している。

3、本訴訟においては、控訴審係属中に、減額再更正処分がなされたので、上告人らは、再更正処分がなされた後である平成四年二月一五日付準備書面において、請求の拡張を行った。 上告人らは昭和六三年六月一三日付で行った修正申告どおりの課税を求めているのであるところ、その後、死後認知裁判の確定により相続人が一名増えたことにより、課税額は右修正申告にもとづく課税額よりさらに減少することになるからである。

さらに、昭和六三年六月三〇日付更正処分は、減額再更正処分により一部取消されたのであるから、この処分の取消しを求めていること自体に変更はないから、請求の拡張をした。

ところが、原審裁判所は、本件訴訟指揮において、原更正処分は消滅し取消の対象となるのは再更正処分であり、訴訟物は変わったことになるとの見解を示し、被上告人側に、再更正決定の内容を明らかにするように求め、上告人らに対しては、訴えの変更をするように求めた。

そこで、被上告人は、平成四年二月二九日付準備書面で再更正処分の内容及びその適法性の主張をなし、上告人は、平成四年三月二四日準備書面において、請求を当初更正処分の取消しから再更正処分の取消しに変更する訴えの交換的変更を行ったのである。

上告人らは、原審裁判所の訴訟指揮に従ったままである(ついでながら、平成四年三月二四日付準備書面で、上告人らが引用した金子宏は、減額再更正に関する御庁判例と反対の立場の代表的論者である)。

その上で、原判決は、交換後の請求について、請求を棄却する判決をなした。

しかし、御庁判例に従う限り訴えの交換的変更を前提する限り、再更正処分は訴えの利益がないのであるから、却下の判決をすべきということになる。

しかし、そうであればもちろん、その前提として、訴え却下の判決をしなければならないような訴えの変更を求める訴訟指揮をするべきではない。

この点において、原判決は破棄されるべきであり、上告人らに対しては、平成四年三月二四日付訴えの変更を撤回する機会を与えるべきである。

第二点

1、原判決は第一審のとおり、被相続人である亡丹羽久章より上告人らが相談したものは、瀬戸市北松山町二丁目一七一番地一四筆の宅地合計三一九二・九九平方メートル(以下、原判決のとおり、「甲土地」という)の土地所有権ではなく、土地所有権移転請求権であると認定する。 しかし、右の判断は、民法五五五条一七六条の解釈を誤ったものであり、法令適用の誤りがある。

すなわち、上告人らが相続したのは、土地であって、右土地については、相続税法二二条にいう時価として、相続税財産評価に関する基本通達にもとづいて評価した価額が、相続した財産の価額である。

2、原判決は、同じく、被相続人より上告人らが名古屋市緑区鳴子町五丁目一八番の一宅地(以下、原判決のとおり、「乙土地」という)については将来、乙土地の売買契約を締結する場合の契約条件の要旨を約したにすぎないものとする。

しかし、もともと国土利用計画法所定の手続により、売買届出が無勧告容認されることは、売買契約の成立要件ではなく、昭和六〇年七月二〇日乙土地の名鉄不動産とナカイ、ナカイと被相続人間において売買は成立している。

この点で、原判決は民法五五五条・一七六条の解釈を誤り、相続税法二二条の適用を誤った違法がある。

第三点、次に、仮に被相続人より上告人らが相続したものが土地所有権移転請求権であるとしても、原判決が、甲土地について、その価額が、土地売買価格に仲介料を加算した額であるとするのは、相続税法二二条の解釈を誤ったものである。

同条にいう「当該財産の取得の時における時価」について、当該土地を取得するについて、仲介手数料を要したか否かは偶然的事情によるもの(仲介手数料を要しない取引も多数ある)であって、かつ土地所有権自体の価値を高めるものではないから、取得価額ではなく売買代金相当額が時価となるべきである。

この点で、御庁昭和六一年一二月五日第二小法廷の判例は変更されるべきである。

第四点、乙土地について、これが単に、将来の売買条件の要旨を約したにすぎないとしても、仲介手数料債務は停止条件付債務であり、かつ、条件成就が確実であるので、相続債務とされるべきである。

この点において、原判決は、相続税法一四条一項の適用を誤ったものである。

すなわち、もし上告人らが乙土地についての売買を履行しなかったとすると、上告人らには、契約不履行による損害賠償債務が発生することになる。つまり、いずれにしても、必ず何らかの債務が発生することになるのであるから、相続開始当時、これを相続債務としないと言うことは納税者たる相続人が負う債務を全く考慮しないことになり、著しく不当な課税となる。

確実な債務として、売買契約締結による仲介手数料債務は相続債務とされるべきである。

以上

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